【大矢アキオの イタリアでcosì così でいこう!】超弩級リムジンの意外な中身とは? 「アズノム」の世界

Così così(コジコジ)とはイタリア語で「まあまあ」のこと。この国の人々がよく口にする表現である。毎日のなかで出会ったもの・シアワセに感じたもの・マジメに考えたことを、在住24年の筆者の視点で綴ってゆく。

幻のショーデビュー

ここに紹介するイタリア製ハイパーリムジンの名前は「アズノム・パラディウム」という。2020年11月5日にリリースされた。
全長約6メートル、全高約2メートルという堂々たる体躯をもつ。モンツァを本拠とするカスタム・コーチビルダー「アズノム」による最新作だ。デザインは3Dモデリングのコンサルタントとしてフェラーリで長い経験をもつアレッサンドロ・カモラーリによる。名前は16世紀イタリアの建築家アンドレア・パッラーディオと彼の作品にインスパイアされたものという。

それはともかく驚いたのは、この車は4WDで、プラットフォームはなんとフィアット・クライスラー製の「ラム1500」、つまりピックアップトラックであるということだった。エンジンもツインターボで強化したラムの5.7 L・ヘミV8で、710hp/950Nmを発生する。8段ATもラム用を流用している。

ファストバックのリアエンド。4WD機構および5.7LツインターボV8エンジン、そして8段ATはラムからの流用である。

このクルマ、実は2020年10月末の「ミラノ・モンツァ・オープンエア・モーターショー」で賑々しく発表される計画だった。筆者のもとには1カ月前の9月末からフロントグリル、リアエンド、俯瞰による室内透視図といったアズノム・パラディウムのティザー画像が次々と届き始めた。それを見た筆者は、おそらくロールス・ロイス・ファントムあたりがベースかと想像し始めたものだ。

ハイパーリムジン「アズノム・パラディウム」の全長×全幅は5960×2085mm。デザイナーのA.カモラーリは、3Dモデリングのエクスパートである。重量は2650kg。

そのイメージをさら拡張させるような、ゴージャスなインテリア画像も舞い込み始めた。ところが前述のショーは6日前になって、新型コロナウイルス感染が拡大したため中止された。代わりにアズノムは、リリース形式でパラディウムの全容を公開することになった。ボディカラーは、クラシカルでありながらどこかモダンさを感じさせる絶妙な紺である。

ダッシュボードおよび後席のディスプレイはマイクロソフト・サーフェスXプロを使用している。

Cピラーには、「ホライゾン(地平線)ウィンドー」と名付けられた小窓が開けられている。かつて米国車や一部日本車でオペラウィンドーと呼ばれていたものを想起させる、懐かしい遊びだ。

それはともかく驚いたのは、この車の駆動方式は4WDで、ベースはなんとフィアット・クライスラー製の「ラム1500」、つまりピックアップトラックであるということだった。同車の5.7Lツインターボ710hp/950Nmエンジンは、アズノムの関連会社「モンツァガレージ」がチューン。同様に8段ATもラム用をベースにしている。

リアシートを覗く。オーディオはハーマン・カードン、皮革部分はトリノのフォリッツォ社から供給を受けている。

実はアズノムは過去にもラム1500をベースにしたカスタムカーを製作している。さらにこうした車両の顧客のなかには、信頼性が重要な砂漠の国の人々も少なくないだろう。そもそも歴史をひもとけば、デ・トマゾやインテルメッカニカなど、米国製ユニットを活用した過去例はイタリアに数多い。そう考えれば、実はまっとうな選択といえる。スペック上の最高速はリミッター作動で210km/h、0-100km/hは4.5秒と発表されている。タイヤは横浜ゴムからADVANスポーツ285/45ZR22の供給を受けている。

その正体とは……?

このアズノムというブランドを筆者が知ったきっかけは、実は自動車のイベントではない。あるワイナリーのイベントで会った人物だった。筆者が自動車メディアに寄稿していることを知ったその人は、「近日息子のマルチェッロがモナコでクルマを展示しますので、ぜひご覧になってください」と招待してくれたのだ。2011年のことだった。

「スパーダ・コーダトロンカ」。フロントミド搭載のエンジンは、シボレー・コルベットZ06用にスーパーチャージャーを加えたものである。2010年コンコルソ・ヴィラ・デステにて。

そうして後日赴いたのは、モンテカルロの「トップマーク」ショーだった。ジャンルを問わずハイグレードなブランドを収集した、モナコならではのイベントであった。ブースに展示されていた「アズノム・コーダトロンカ・バルケッタ」は、ザガートで活躍した名デザイナー、エルコレ・スパーダが子息パオロと共にデザインしたものだった。

「スパーダ・コーダトロンカ・バルケッタ」。2011年モナコ「トップマーク」ショーにて。

アルミ製スペースフレーム+マグネシウム製エンジンクレードルを骨格にもつ。説明によると、1台ごとにモンツァ・サーキットのコーナー名を命名してゆくという。たとえばディスプレイされていたのは「アスカーリ」だった。「こんなにアグレッシヴでスパルタンな車をプロデュースするとは、どのような人物なのか」と想像していたら、それまで筆者に解説してくれていた温厚な人物こそ、アズノムのマルチェッロ・メレガッリ代表であった。

スパーダ・コーダトロンカ・バルケッタのデザインは、エルコレ&パオロ・スパーダによるものであった。2011年モナコ「トップマーク」ショーにて。

「私たちの母体は、酒類を扱う会社です」
アズノムの親会社は、1865年に歴史を遡るイタリア屈指の酒類専門貿易商社「グルッポ・メレガッリ」だった。モナコ、スイス、フランスにも法人をもち、年間取扱本数は400万ボトルに及ぶ。同社で5代目経営者であるマルチェッロ氏はCEOの職にあり、前述のワイナリーで出会った父親ジュゼッペ氏は会長の職にある。

スパルタンとモダンが融合されたスパーダ・コーダトロンカ・バルケッタのコクピット。

ちなみにモンツァにある彼らの本社で面白いのは、イタリア人の誰でも学校で学ぶアレッサンドロ・マンゾーニの小説「いいなづけ」に登場する女子修道院そのものを改装したものであることだ。伝説のサーキットがある地を本拠にしていることと、父ジュゼッペ氏譲りの自動車に対するパッションをもとに、マルチェッロ氏が2007年に設立したのがアズノムというわけである。

アズノムの名前をイタリアで最も広く知らしめたのは、前述の2008年「スパーダ・コーダトロンカ・モンツァ」および、そのスパイダー版である前述の「スパーダ・コーダトロンカ・バルケッタ」である。この計画のためには、スパーダ父子が主宰する「スパーダコンセプト」や生産会社「スパーダ・ヴェットゥーレ・スポルト」も設立された。

過去の作品から。「フィアット500アズノム・スタイル」。

ただし、他にも、ランドローバー・ディフェンダー/ディスカバリー、レンジローバー、フィアット500などをベースにしたスペシャルを今日までに十数台リリースしている。いずれも伝統のレザーやウッド、また定評あるイタリア製カーボンをふんだんに応用しているのが特徴だ。

フィアット500アズノム・スタイルのインテリア。

ブレンボ、アルカンターラといったイタリアを本拠とする企業がパートナーとして参画しているのは、メレガッリ家の人脈の広さを物語っている。ところで、マルチェッロ氏にAZNOMという国籍が想像できないネーミングの由来を聞けば、「MONZAの逆さ読みです」と、飄々と答えてくれた。

時代は隠れ家レストラン感覚

今回アズノムがリリースしたパラディウムは、10台限定で造られる予定だ。イタリアやスイスには、アズノム同様に限られたオーナーを対象にしたカスタムコーチビルダーが数々存在する。顧客は主に、中東やロシアなどに代表される地域の富裕層である。

アズノムの若き代表、マルチェッロ・メレガッリ氏。2020年で43歳を迎えた。

それは近年になってランボルギーニ、フェラーリ、ブガッティといった“量産”ブランドが超限定生産車で狙いはじめたマーケットとも重複する。アズノムが今回のパラディウムにかける期待は大きいらしく、専用ウェブサイトを立ち上げているが、それ以前からアズノムの公式ウェブサイトも存在する。そこには「ONLY BE-SPOKE」の文字とともに、「私たちにはカタログも価格表も、そして一定の諸元もありません」と記され、コンタクト欄も書き込み欄こそあるが、モンツァにピンが下りるだけだ。本当に関心のある人だけがアクセスする世界の雰囲気が溢れている。
フェラーリが著名ホテルのレストラン、パガーニが元有名ホテルシェフの人気店とすれば、アズノムはさながら隠れ家レストランといったところである。イタリア自動車文化の多様性は、21世紀の今なお続いているのだ。

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Akio Lorenzo OYA、AZNOM

この記事を書いた人

大矢アキオ

イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを学び、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK「ラジオ深夜便」の現地リポーターも今日まで20年にわたり務めている。著書・訳書多数。近著は『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)。

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