「ドイツ車の光と影」現地で8年間暮らしてわかったこと

ドイツ車が高性能な理由は、ドイツで走るための性能が与えられているにすぎない

渡独以前の私は、もちろん人並み以上にドイツ車に対して興味を持っていたし、知識もそれなりにあったが、その背景に何があるのかはまったく理解できていなかった。だが8年間も現地でドイツ車を取材し、ドイツ車でドイツとヨーロッパ中の道を20万km以上も走り続けた結果、ドイツ車に対する見方は大きく変化した。
ドイツ車の剛性感の高さや直進性の良さ、ステアリングの正確性は、間違いなくドイツの道路環境によるものだ。平均速度が高く、速度無制限区間では300km/h超で走ることもできるアウトバーンでは、何よりもまずシャシーに高い性能が求められる。高速域でフラフラしたり、振動やバウンシングが収まらないようなクルマではアウトバーンは走れないのだ。
当然パワートレインにもそれなりの性能が求められるが、ドイツ車はどちらかというと、絶対的なスペックよりも扱いやすさと低振動を重視している。アウトバーンから30km/h制限の市街地まで走るのだから当然だ。また高速走行時にパワートレインのノイズや振動が抑えられているのもアウトバーンがあるから。実際、アウトバーンの推奨速度である130km/h付近でノイズや振動が収まるドイツ車は多い。
だがシャシーとパワートレインでは、どちらかというとシャシーに比重が置かれている。これは大型でハイパワーなモデルにより顕著だが、エントリークラスのコンパクトカーも同様だ。だから初代VWゴルフGTIにはじまり、up!GTIのようなモデルがちゃんと成立するのである。

マイン川越しのフランクフルトの街並み。筆者は2018年7月まで、この街をベースにドイツのモータージャーナリストとして活動した。

ドイツ車はニュルブルクリンクで開発しているから良い訳ではない。ドイツで走るために必要な性能が与えられているにすぎないのだ。その意味では、ドイツ車もまたガラパゴス製品なのだが、そこも含めて多くの国で価値として認められているのである。
「値段が高いのだから当たり前だ」と言われればそれまでだが、メーカー自身が高くても売れる市場環境を根気よく作ってきたからこそ、いまのドイツ車がある。
ドイツの自動車メーカーは、安全性や先進性、そしてブランドのヘリテージをアピールし続けている。ニューモデルがデビューすると、発表会や試乗会以外に、最新の安全技術や先端技術を紹介するワークショップ、最新モデルと過去のモデルとの連続性が体感できるイベントを必ずといっていいほど行なう。結果、カスタマーに各ブランドの魅力やストーリーがメディアを通じて広く浸透し、「少々高くても良いクルマだから買いたい!」と思わせることに成功している。
ドイツ人はクルマが大好きだ。そんなドイツ人が、アウトバーンがある国で走るためのクルマを、生来のゲルマン的職人気質で作り上げたのがドイツ車である。最近は市場のグローバル化の影響で、かつてほどのこだわりは見られなくなったが、それでもドイツにはドイツでしか生まれ得ないクルマがまだまだ存在する。そんなドイツ車の魅力を今後も追い続けたい。

ルボラン2020年11月号より転載

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