VIの進化が約束するGTIのサクセスストリー
肝心要のパワーユニットは、これまでと同様の直列4気筒2L直噴ターボだが、実はコレはすでにパサートやティグアンに積まれている新世代のもの。振動を低減するバランサーシャフトや高効率の潤滑系の採用、新型インジェクターの採用や内部構造の刷新、フリクション低減等々、すべてを見直すことで、高出力とさらなる低燃費を両立させている。
最高出力は現行型比10ps増しの210ps、最大トルクは1800rpmという低回転域にて28.6kg-mを発生すると伝えられている。だが、このユニット、排気側に可変バルブリフト機構を仕込んだ仕様もあって、スペックだけではどちらか判断はできないのだが、いずれにせよその燃費は現行モデルの8L/100kmに対して7.5L/100kmとすこぶる優秀。看板には偽りなく、パワーと燃費の向上を、確かに両立しているのだ。
洗練されたフィーリングも、このエンジンの大きな魅力である。フリクション低減やバランサーシャフトの効果で、回り方はこれまでより緻密で爽快。実に気持ち良く吹け上がる。ゴルフ自体、徹底した遮音によって室内の音環境を大幅に改善しており、それと合わせて、より質の高いスポーツ性を体感させてくれるに違いない。
シャシーの躾についても同様。22mmのローダウンを実現したサスペンションの出来映えは気になるところだが、走りの土台に格段の磨きがかかっていることはゴルフで体験済み。以前に試した新型シロッコでの経験からすれば、DCCアダプティブシャシーコントロールがなくても上々の快適性とハンドリングを両立してるはずだ。GTIも、このDCCはオプションで用意されるという。なくても十分だろうと思いつつ、装着すれば従来以上のコンフォート性とスポーツ性を1台で楽しませてくれるのでは……と期待が高まる。
これまた新採用のXDSにも興味津々である。詳細は不明だが、ABSの回路を利用したEDS(電子制御式ディファレンシャル)を発展させてLSD的な効果を持たせたものと思しきこのシステムは、従来以上の旋回性能とトラクション性能を狙っているはず。それなら機械式LSDを……といいたいところだが、そうするとステアリングのキックバックが過大になり、挙動もシビアになりがち。幅広いドライバーが乗るゴルフGTIだけに、XDSの効果とフィーリングには要注目だ。
アイスランドで試乗したゴルフで何より印象に残っているのは、磨き上げられた走りの圧倒的なクオリティの高さである。ステアリングフィール、サスペンションのストローク感、乗り心地の良さ……等々、あらゆる要素が丹念に煮詰められた様を、まざまざと実感することができたのだ。GTIも当然、その延長線上にあるはず。新エンジンやXDS、DCCといった新機軸の採用が、ドライビングプレジャーの新しい次元を切り拓いていることだろう。
そして、これは期待ではなく、もはや約束。ゴルフVのデビューと同時にお披露目されたGTIコンセプトが、いざ市販された時にも大きなインパクトをもたらしたように、早くもその姿が披露されたゴルフ・GTIも、想像を大きく超えるものとして我々の前に登場するはずだ。生産開始は2009年春から。フリークは、いましばらくの辛抱である。
GOLF V GTI
“GTIとしての原点回帰”を目指した5代目
2004年のパリ・サロンでワールドプレミアとなったV・GTI。そのキャッチフレーズは「GTI is BACK」。代を重ねるにつれ“特別感”が薄まってきたGTIに対し、ゴルフIのGTIが有していたような圧倒的な存在感を取り戻す−−というのが、その基本コンセプトだった。それだけに、デザインなどの表現方法は異なるが、VとVIのGTIの間に大きなベクトルの違いはない。つまり、両車とも目指したのは“原点回帰”だからだ。また、エンジンパワーをあえて210psに抑え、パフォーマンスと環境性能の両立を図っているという新型GTIだが、考えてみれば2L直噴ターボという、TSIの先駆けといえるパワーユニットにDSGを組み合わせるVのGTIも十分にエコ。新型GTIは、その精神を引き継いでいると見ることもできる。
リポート:島下泰久/フォト:フォルクスワーゲンAG
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