
「C15」というバン専用車がベルランゴの前身
昨年秋に日本に上陸、オンライン予約を行ったところ5時間あまりで完売したというマルチパーパスカー(MPV)「シトロエン・ベルランゴ」。2020年中には正式なカタログモデルになる見込みで、早い発売が待たれる一台である。ルノー・カングーのように大きな箱を背負ったスタイルのベルランゴは、ベースが商用車で、乗用仕様が用意されるという点もカングーと同じだ。現行型は2018年登場の3代目となるが、ベルランゴは過去モデルが正規輸入されていないため、「そういえばベルランゴの歴代モデルのことは何も知らない」という人も多いだろう。
そこで、今回の「ニューモデル情報通」では、日本ではあまり(いや、ほぼ)知られていない、初代と2代目ベルランゴの歴史を振り返ってみたい。
1970年代から80年代にかけて、イタリアン・フレンチメーカーの小型商用車には、ハッチバックの車体後半に箱をくっつけてバンにする「フルゴネット」が多かった。ルノーは「サンク」から「エクスプレス」を、シトロエンは「ヴィザ」ベースで「C15」を、フィアットは147から「フィオリーノ」を作るなど、数多くの車種が誕生している。いずれも基本はフロントドアまでをベース車と共用、車体後半を箱型荷室に変更しているが、古くはシトロエン・2CVやルノー4の時代からこの方法でバンが生み出されていた。
シトロエンC15は、2CVの改良型・ディアーヌのフルゴネット「アカディアーヌ」の後継車として1986年に登場。全長は4m以下、最大積載量は約450〜750kgクラスの小さなバンで、シトロエンの隠れたベストセラーモデルでもあった。
初代ベルランゴのデビューは1996年……なんとカングー登場よりも早かった
1996年。C15の後を継いだシトロエンの新しい商用車「ベルランゴ」が、兄弟車の「プジョー・パートナー」とともにデビューした。ベルランゴも「フルゴネット」のカテゴリーに属したが、C15と異なりボディ外板はすべてオリジナルとなり、全長は4.1m台に拡大していた。だがそれ以上の違いは、ベルランゴには「乗用仕様」を設定したことだった。商用車ゆえの広い車内を利用して、折りたたみ式シートをリアに3座設けた5人乗りとして、各部の仕上げや装備も乗用車並みに高めた……と聞くと、「それ、初代カングーの真似じゃないの?」と言われてしまいそうだが、なんと実際には、カングーはベルランゴより1年後の1997年から発売していたのである。商用・乗用仕様どちらにせよ、この「ボンネット付きMPV」というジャンルの先達は、カングーではなくベルランゴだったのだ。
初代ベルランゴには、当初スライドドアがなかった!
しかし、後発のカングーには大きなアドバンテージがあった。それが、「サイドにスライドドアを設けていた」こと。C15やエクスプレスを見るとわかるが、箱にアクセスできるドアは後部のみで、ボディサイドには荷室にアクセスできるドアがなかった。その流れを汲んだベルランゴも、デビュー当初はリアドアを持っていなかったのである。下の写真はデビュー時のベルランゴの乗用仕様で、たしかにリアドアがない。かつて日本にもカローラやサニーの2ドアバンがあったのを思い出す。
カングーのリアスライドドアは片側のみの装備だったが、利便性がよく大好評。カングーの販売台数増に貢献していた。そこでシトロエンはこれに対抗すべく、1999年になってベルランゴにリアスライドドアを追加した。するとカングーはすぐに両側スライドドアを標準装備にしてしまい、一歩先に行ってしまった。ベルランゴもそれを追随したのはいうまでもない。
その後ベルランゴは、2002年に大きめのマイナーチェンジを実施してフェーズ2に。オメメパッチリ系の顔に変わったほか、ダッシュボードも全面刷新。安全対策なども強化している。
2代目ベルランゴは2008年に車体を大きくして登場
ベルランゴは2008年に2代目となった。前年・2007年に出たライバルの2代目カングーと同様、2代目ベルランゴは車体サイズが大きくなった。カングーはCセグメントのメガーヌと同じプラットフォームをベースにしていたが、ベルランゴも、PSAプジョー・シトロエンのCセグメント車(C4や307など)用のプラットフォームを用いた。安全性も大きく向上しており、Euro NCAPのクラッシュテストでは4つ星を獲得している。
乗用仕様は、商用車の雰囲気が残っていた初代に比べると、ぐっと上質な内外装を得て、さらに乗用車らしい体裁に発展していた。トリムレベルは初代から引き継いだ「ビバーク」、「マルチスペース」の他に、アウトドア風に仕立てた「XTR」などが設定されていた。

2代目ベルランゴの乗用仕様の上位トリム、マルチスペース。2代目ではさらに乗用仕様の装備が豊富になり、商用車然としたインテリアからも脱却していた。写真は2015年登場のフェーズ3。内外装の小変更が行われたほか、パワートレーンが一新された。
カングー同様、ベルランゴの本分はMPVであると同時に小型バン。2代目でもバンはもちろん販売された。車体の大型化は積載力向上に寄与したのは言うまでもない。なお、2代目ベルランゴから「ロングボディ」をラインナップしているが、現行型がホイールベースを延長しているのに対し、2代目は車体後半にエクステンションをつなげることで、全長を約250mm伸ばす方法を採っていた。

2代目ベルランゴにも、当然プジョー版・パートナーが継続。こちらも乗用仕様の作り込みを重視しており、ベルランゴのマルチスペースに対して「タペー」という愛称が与えられた。写真は、同時期のプジョー・フェイスを採用したフェーズ1。マイナーチェンジ後のフェーズ2では、ライトの間にグリルが仕込まれる。

2代目ベルランゴは大型化したため、ひとまわり小柄な「ニモ」が同年にデビューしている。ニモはフィアットが主体で開発されたため、プラットフォームはグランデプントなどと共通。フィアット版は「フィオリーノ(商用)」「クーボ(乗用)」、プジョーでは「ビッパー」と呼ばれる。
カングーより一足先に、ベルランゴは3代目に
そして2018年、新型ベルランゴがアンヴェール。カングーより先に3代目を数えることになった。新型は内外装や走りの質をより高め、MPVとしての魅力に磨きをかけている。現行型ベルランゴについての詳細は、こちらの記事もぜひご覧いただきたい。
https://carsmeet.jp/2020/03/15/142669/
なお、プジョー版の名前がパートナーから「リフター」に変わったほか、プジョー・シトロエン(2016年からグループPSAに改名)傘下となったオペル(と、英国版ボクスホール)向けの「コンボ」、トヨタ版「プロエースシティ」を擁する大ファミリーに発展したことも大きなトピックといえる。
3代目となる次期カングー登場のウワサは、ちらほら耳に入り始めている。1990年代末から続く「永遠のライバル対決」の3rdラウンドはどうなるのか、今後に注目だ。

PSA傘下入りしたオペル(英国名:ボクスホール)にも、「コンボ(E)」として供給される。ベルランゴのオペル版は初登場。オペルは伝統的に、モデルチェンジのたびにアルファベットがA、B、C……と進むので、Eだと5代目ということがわかる。
この記事を書いた人

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。
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