S60の乗り味は乗り手の身体によく馴染む
そんなS60の対抗馬として今回用意したのは、いずれもFF系プラットフォームをベースとする2台である。日本のレクサスESとドイツのアウディA4だ。
A4もまた前輪位置問題を積極的にクリアしたモデルである。そのことは見映えのみならずパフォーマンスにも現れており、(FFにしては)短いフロントオーバーハングと軽やかなパワーステアリング設定とが相まって、4WDであるにも関わらず、S60以上に機敏なハンドリングをみせた。積極的にドライブを楽しみたい向きにはいい選択肢になるだろう。
S60にあってA4にないものはというと全域に渡る落ち着きかも知れない。A4からしっとりとしたドライブフィールを得るのはかなり速度の高い領域となり、日本ではほとんど体験できない。一方のS60は、低速域でこそやや硬めの乗り心地ながら、ほとんどの常用域において乗り手の身体によく馴染む走りをみせる。ドライバーがその気になればA4と同等のスポーティさも経験できるから、ある意味S60の方がスウィートスポットは広いと言えそう。
国産プレミアムブランドの雄(というか唯一)、レクサスのミドルクラスセダンはどうか。スタイリング的には典型的なFFで、新しさはない。けれども最上級フラッグシップのLSかと見紛うほど立派な雰囲気を醸し出す。この存在感の大きさに惹かれるユーザーも多いことだろう。
もっともそのパフォーマンスは、欧州の2台と比べて平凡だ。いや、それでも高い速度域では欧州勢の背中が見えるほど進化はした。ベースがカムリであることを考えても、それは上出来なレベルだと言っていい。けれども、たとえば市中をゆっくり流しているようなときに手足で感じる懐の深さや動きの滑らかさという点で、ESはS60にはっきりと劣る。端的に言って、かなり大きなサイズのセダンだと感じてしまうのだ。
実際、ボディサイズも大きいし、室内に座ったときの感覚もかなり広い。それは美点だろう。けれどもドライバーズカーとして捉えた場合に、欧州勢と比べて見劣りしてしまうのは確か。見映えクォリティなど目を見張る進化をみせているだけに惜しいところだ。
3台を順次同じルートで乗り比べてみると、面白いことに気づく。速度域がかなり上がってくると、パフォーマンスは意外にも均質となる。どのクルマも悪くない。パワートレインや駆動方式の違いこそあれ、高速道路でのドライバビリティは一様に高レベルにある。欧州勢は当然のことながらレクサスの進化にここでは驚く。以前は決して上手な分野ではなかった。
違いが明確だったのは、たとえば駐車場から出て幹線道路に入るまでのちょっとした距離をゆっくり走ったときのドライブフィールである。アウディのそれはとにかく軽快さを前面に押し出している。“動きの軽さ”を何より優先して味わいたい向きには最高だろう。
ボルボは言うならばしっとり系だ。とはいえレクサスのように鈍重なフィールはない。そこは乗り手との一体感に乗り味が上手くバランスしていると言った方がいい。
結局のところ良いクルマの場合、体はよく動を表す。バランスのいいスタイルは結局、バランスのいい走りの“証”なのだった。
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