【フレンチ閑々】パリ・オートモビル・ウィークはなぜ成立するか? 決められる国のリファレンスとしての存在感

南陽一浩
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フランスおよび欧州の自動車事情と現地に精通するジャーナリスト「南陽一浩」がお伝えする連載「フレンチ閑々」。第1回目はコロナウイルスが猛威を振るう前の「パリ・オートモビル・ウィーク」とフランスのクラシックカー事情をリポートする。

モノの価値や基準を決めるルール作りに秀でているフランス

コロナウイルスによる渡航禁止が敷かれていない先月初旬、例年通りフランスはパリで「パリ・オートモビル・ウィーク」が行われた。これは決まったイベント名でも何でもない。元々は世界最大級のインドア旧車ミーティング「レトロモビル」が開かれるのと前後して、ここ数年来、ボーナムスやRMサザビーズといった英米圏の有力オークショネアが同時多発的に競売を行うようになった。年によっては、アンヴァリッド(廃兵院)で開催されるプロトタイプのショー、「フェスティヴァル・オートモビル・アンテルナショナル」も同じ週に来る。

そのため同時多発的に複数ブランドがショーを催す、既存のメンズやレディス、オートクチュールやプレタポルテの「ファッション・ウィーク」のような呼ばれ方になった。レトロモビル会場にも公式オークショネアとしてアールキュリアルの競売があるので、2月初旬の週末に都合3つもの、ヒストリックカーの大きな競売がパリに集中するのだ。

今年は景気の下振れが予感されたか、すべてが投機筋でもないだろうが、3つのオークションで計13台ものブガッティが並んだことは象徴的だった。ところが、そのうちタイプ57アタランテやステルヴィオがミリオン以上、つまり円の感覚でいう億超えの予想値を提げていたが、13台中7台は落札が成立せず、不調に終わった。さらに近年ずっと高止まりしていた「役モノのポルシェ」も、ナロー世代から964、993など1千万前後から3千万円弱の予想値をつけたカレラRSなどがことごとく売れ残った。逆に904GTSは2億5千万円近くで落札された。それでも総じて、相場ははっきり下落傾向のようだ。投機筋ではないマニアにとって、朗報ではある。

それにしても、なぜこれだけオークションがパリに集中するのか? パリに富裕層が多いとか、ツーリストが集まって来るとか、外交語としてフランス語の地位がまだ保たれているからというのは、半分正解だが十分な答えではない。欧州でロジスティック的にもっと便利な街はベルギーにもあるし、ブリュッセルではフランス語は公用語のひとつでさえある。

単なる商都や消費の都である以上に、パリひいてはフランスは、モノの価値や基準を決めるルール作りに秀でている。しかもそれらが一応、理性的な方法とシステムで運営されているという信用がある。古くは革命時のメートル原器しかり、19世紀に定められた葡萄畑を格付けしたAOC(原産地統制呼称)しかり。特級や一級など格付けで輸出品としてワインの質を保証する仕組みは、今日のIGP(原産地名称保護制度)というEUルールの基礎になった。消費者の興味は畑や造り手単位にまで細分化されたにせよ、その下地は間違いなくAOCありきだ。世界標準時こそ英国に譲ってGMT(グリニッジ・ミーン・タイム)より1時間早い時間帯を使っているが、20世紀以降はミシュランが旅行ガイドを発行し、今日では美食の格付けシステムの指標になっているのはご存知の通りだ。。

そんなフランスが作り出した最新の仕組みというのが、「コレクション車両登録」だ。「それならドイツにも”Hナンバー”があるじゃないか」という声も挙がるだろうが、あちらは中古車と同じく2年車検で、初登録から30年を境に税制や保険が安くなる優遇制度であるため、単に「安い中古車」になってしまっている嫌いがある。というのも、Hナンバーの半分以上が日常使いされ、走らせるために安く上げる方向の整備になってしまっているのだ。。

フランスでは「カルト・グリーズ」と呼ばれる車両登録証明と、「コントロール・テクニック」という車両状態を検査するいわゆる車検は、結びついているようで別々のものとなっている。前者を取るのに後者を通っていることは必須条件だが、2009年以降、取得したナンバーは廃車まで不変となり、こうして登録と整備認証が別々のプロセスとなったのと同時に、初年度から30年以上を経たクルマの車検を5年ごとにする優遇措置を導入した。それが「コレクション車両登録」だ。普段使いするための頻繁な整備ではなく、車両の維持を目的とし、改造などは認められずオリジナル状態であることも条件となる。

 加えて2017年2月末からは、1960年1月1日以前に初年度登録したクルマについては、車検整備そのものを不要とした。ゆえに1959年式以前のクルマは、「コレクション車両としての車検登録」を一度済ませればナンバーも付く以上、実質的にずっと有効なのだ。そして一度、コレクション車両登録したら、日常使いの普通登録に戻れないという不可逆性もある。

 

オーナーのメリットは走らせる、または維持するだけのコストに集中できる、それだけではない。クルマの登記が固定される以上、素性が明らかになり不動産のように売買しやすくなる。フランスで登録歴が無いクルマでも、FFVEという非営利団体の調査か、自動車メーカーの資料や記録など、公的な書類で車両状態(仕様であって程度ではない)が新車当時のままであることを証明できればいい。

しかもフランスでは1月から11月前半ぐらいまで、それこそ毎週のようにヒストリックカー・イベントが行われる。かくして投機筋を含めた維持派も走らせる派も、フランスの領土内にヒストリックカーを置いておく理由が生まれた。この制度の穴は一点、車検取得時に求められていた有効な保険の提出機会がないため、オーナー各自の責任に任されるという、紳士協定的な側面だ。

とはいえ現在、「コレクション車両としての車検登録」の申請数は、車齢30年前後のヤングタイマーを中心に爆発的に増えている。今のところ車検無用のキリは1959年式までだがこの先、定期的に1964年とか1969年までといった風にエクステンドされる可能性はある。これらの法整備は「趣味のクルマ」を将来的に大切に維持することを促すもので、動産としての趣味グルマが文化的に価値をもつのは無論、整備や移動といったサービス、あるいは観光や消費をも突き動かすハブとなる効果が、期待されているのだ。ちなみにフランスの一般コレクターの間では、何台も保有しながら動体保存ではなく、博物館として公開するでもなく、ガレージで塩漬けにしているようなオーナーは、他のマニアやクルマそのものの機会を奪っていると、嫌われる傾向にある。投機筋とやっていることは変わらないからだ。

日本は逆行したような、買い替え促進を目的に旧いクルマに超過税を課している訳だが、欠けているのは生活用品と嗜好品の峻別と定義、そして30~50年以上のスパンでの視点だろう。日本車のヴィンテージイヤーといわれた1989年から30年経っても、未だ自動車を文化的・趣味的側面でルール策定できなかった事実は、致命的な遅れという気もする。

パリ・オートモビル・ウィークに話を戻そう。じつはもっとも盛り上がっているのは、高額クラスの競売ではなく、一昨年からレトロモビルの一角に設けられた「アンダー2万5000ユーロ(300万円以下)の売り物コーナー」だったりする。青田買いの場もちゃんと用意されている、そこがこれらのイベントの面白さで、次回は300万円アンダーのコーナーを練り歩いた印象を報告する。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

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