【国内試乗】「ポルシェ911カレラS」新型911は本当にスゴいのか!

992は史上最高に快適かつ静かな911

ならば走りはどうか。ちょっと掴みにくくなったドアハンドルを引き、乗り込む。中央の回転計以外がすべて液晶化された5連メーターは、両端がステアリングホイールにケラレるものの、多くの情報を的確に表示する。スティックになったシフトセレクターは握るのではなく指で操作するのが新しい作法だ。
走りはじめて最初に感じたのは、フロント20インチ、リア21インチ、扁平率30というタイヤを見事に履きこなしていること。強めの段差を通過してもガツンという角の尖がったショックはなく、ザラザラした路面を走っても無粋なロードノイズが車内を満たすことはない。結果として、992は史上最高に快適かつ静かな911になった。たとえ乗用車と呼ばれるクルマたちと同じ土俵で評価しても「非常に快適」という表現をためらわずに使うことができるレベルだ。

新型992の内外装は、間違いなく先代オーナーから嫉妬される。インテリアは1970年代の911をモチーフとした水平基調でよりワイドな印象が強まったダッシュボードを採用。とはいえ、伝統の5連メーターパネルはタコメーター以外はデジタル化することで、ドライバー中心の思想を守りつつ、先進性を取り入れている。

3Lフラット6ターボは991後期と基本的に同じ構成ながら、最高出力は30ps、最大トルクは30Nm増えた。気持ちさえよければモデルチェンジする度に強力化する必要なんてないのに、というのが僕の考えだが、それでは納得しない人が多いのが現実なのだろう。実際、ウェイトは55kg重くなっているにもかかわらず、1-5速をローギアードかつクロス化した8速PDKとのコンビネーションによって0-100km/h加速は991後期より0.4秒短い3.5秒(スポーツクロノ装着車)をマークする。同じ排気量でも、これだけ速くなれば誰からも文句は出まい。しかし、繰り返すが僕の興味の焦点は絶対的な速さよりもフィーリングにある。その点、嬉しいことにこのエンジンは相変わらず最高に刺激的だ。大径ターボの採用によるターボラグの増加は感じないし、低中速域での粘りもちゃんと残されている。それでいて、上まで回していったときの甲高いサウンドとカミソリ感、ケタはずれの精度感もちゃんと残っている。フェラーリのV8が東の横綱なら、ポルシェのフラット6は西の横綱。スポーツカー界、さらに言うなら内燃機関界におけるエンターテイメント部門の頂点に位置するエンジンだ。こういうエンジンに乗ると内燃機関ってやっぱりいいなと思わずにいられない。ただし自然吸気エンジンを積んでいた991前期と比べると踏み込んだ直後の“ツキ”とサウンドには薄手のベールが一枚被さっている。ターボ化による出力&燃費向上と引き換えに失った数少ないマイナス点だ。

992はやはり史上最高にして最速かつ最良の911である。新型992ではワイドボディを全モデルに採用し、後輪のトレッドを拡大して安定性を向上。新開発のウェットモードを標準装備するほか、衝突被害軽減ブレーキや自動再発進付きACC、レーンキープアシストなどの安全運転支援システムなどの先進機能も充実。

ハードなコーナリングは試せなかったが、少なくともタイヤのグリップ限界内(それでも滅法速いが)のハンドリングは理想的だ。991でもその傾向は感じられたが、RRのクセはここに来てあらかた消し去られ、フロントの軽さやリアの重さを意識させられることなく、前後輪がきれいにバランスを保ったまま狙ったラインを素直にトレースしていく。ピッチングも消えた。一方で、前後バランスがよくなった分、タイトコーナーからの立ち上がりで感じていた後輪の強烈な蹴り出し感は薄まった。もちろん絶対的なトラクションは十分に確保されているが、リアサスをグンと沈めてロケットの如きダッシュを決めるというRRの味わいはもはや過去のものとなりつつあるようだ。
もちろん、タイヤが4本しかない以上、4輪のグリップをバランスよく使って走るほうが効率的だし速いのはわかる。が、クセを味として楽しむ世界観が薄まっていくことには一抹の寂しさを感じる。911にはクールで知的な速さよりも、アイコニックなデザインと並び立つアイコニックな走り味を残して欲しいと思うからだ。とはいえ、そういうマニアックなものを望むなら993も964もあるわけで、スポーツカーとしての進化にフォーカスを当てるなら、992は間違いなく史上最高にして最速かつ最良の911である。

フォト=郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2019年10月号より転載

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岡崎五朗
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2019/09/09 08:00

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