世界的ブームとなったスロットカー、そのパッケージ・デザインの魅力【GALLERIA AUTO MOBILIA】#024

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2019/09/09 10:00

様々な断片から自動車史の広大な世界を管見するこのコーナー、今回は1960年代の半ばに世界的なブームを巻き起こしたスロットカーの、パッケージ・デザインの魅力を、皆さんといっしょに再発見してみたい。

夢を誘うスロットカーのボックスアート

アメリカのプラモデル・メーカーで最初に登場したレベルのスロットカーはアルミのラダーフレームだった。後発のコックスは、リアルに車内も再現できる横置きモーター方式やガイドの動きに合わせて前輪も左右するギミックを採用して、スロットカーのレベルを一気に上げた。

クリスマス。幸運な子供達にとって、それは1年のうちでも最大のイベントだった。1965年ごろ、いちばんの憧れは日本製のおもちゃでは+なく、アメリカ製のおもちゃだった。人形ならリカちゃんよりもバービー。クルマの模型なら、レベルやモノグラムなどのスロットカーだ。バービーが少女というよりもクールでハイファッションな大人の女性だったように、スロットカーはもはや子供向きの玩具の域を超えていた。

ボックス・アートも魅力的だったが、中のパッケージも秀逸だった。ヨーロッパ製のレーシングカーとその影響を受けて登場したアメリカ製レーシングカーが活躍するロードレースが最高潮に達し、USRRCからCan-Amに移行する頃、本物のレーシングカーを組み立てるような夢を抱かせるパッケージ・デザインだった。

スロットカーの源流は古いが、製品として元祖のひとつであるのはドイツの老舗玩具メーカー、メルクリンが1938年に売り出したレーシングカーだ。1本のレールから電流を得て、豆電球を光らせて走った。一方、スロット(溝)にガイドを嵌めて走るクルマのおもちゃとして最初の製品と目されるのは、イギリスのスケーレックストリックが’50年代末に出したフェラーリとマセラティのフロントエンジンF1。プラスチック製ではなくティン・プレート(ブリキ)製のモデルで、スケールは1/27くらいだった。だから、スケーレックストリックは現存する最古のスロットカー・メーカーである。

ローラT70、シャパラル2E、フォードGTはほとんどのメーカーから出ていたが、マクラーレン・エルバは、’64年頃には少数派だったかもしれない。しかし実戦ではその後のマクラーレンは、アメリカのロードレースの王道を邁進した。

スケーレックストリックは、クルマ単体だけでなくラバー製のコースも用意しており、そのセットも販売された。すぐにアメリカへ輸出されたが、アメリカではストロンベッカーがジャガーDタイプとフェラーリ250TRを製品化しており、それはミリオン・セラーとなった。1963年にプラスチックモデル・メーカーのレベルがスロットカーのマーケットに乗り出すと、続いてK&B、AMT、コックスなども参入した。

シャパラル2Cは、レースに出るたびに開発が進み、ディテールに様々な変化があったが、モデルでもメーカーによって微妙なディテールの差異があり、その比較も楽しい。キットに付随する組み立て説明書や、製品のカタログなどのグラフィック・デザインも未だ古びない。

その頃にはアメリカ全土にスロットカーのコースが作られ、すぐに日本にも飛び火して、1965年ごろには日本のプラモデル・メーカーもほとんどがスロットカーに参入した。なんと日本国中で100ヵ所ものスロットカーのコースが新設されたのだった。アメリカでも日本でも、スロットカーの影の仕掛け人はマブチ・モーターだったと言われている。なぜなら、ほとんどのスロットカーの製品がマブチのモーターを採用し、実際にそれは軽量、コンパクト、ハイパワーという優れたPUの3大要素を実現していたのだから。

様々な自動車書籍を出版しているMBIから1999年に出版された『VINTAGE SLOT CARS』は、小冊子なれども全ページカラーで、当時のパッケージの数々を掲載している。また各社の各モデルが解説された有益な資料になっている。今はなき、嶋田洋書で購入。

その後はプラスチック・モデル・メーカー以外の参入もあったが、スロットカーにとってのヴィンテージ・イヤーといえばやはりこの時代だろう。なんといっても、そのパッケージが魅力的だった。アメリカのグラフィック・デザインの最良最高の到達点としても記憶されうるものだと、私は確信している。

スロットカーのバイブルと言うべき1冊『A HISTORY OF ELECTRIC MODEL ROADS AND RACETRACKS』が出版されたのはいつ頃だろうか。奥付には初版の印刷が1000部と書いてあるだけで日付の記載がない。イギリスから直接取り寄せたのは25年以上も前のことだ。

Text:岡田邦雄/Photo:山田芳朗/カーマガジン476号(2018年2月号)より転載

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