妥協を許さないクルマ造りとはよく云われることだが、必要なものを実現するのに、要素を減らすよりは増やす方が簡単なことは明白だ。結果、重くなり続けた今日のクルマの中で、アルピーヌA110は異彩を放つ。軽さは正義ともよく云われるが、正義を押しつけるのではなく、自らに忠実であり続ける点が新生アルピーヌの新しさであり、受け入れられる理由だ。
その成り立ちは、ある意味で“奇跡”か
発表されて2年、日本市場に上陸して1年。新しいA110が売れていると聞いて、さもありなんと思う一方、意外と感じるところもある。その理由は3つ。
まずプロダクト・イン視点で眺めれば、A110はスペックで買われるスポーツカーではない。ライバルよりパワーやトルク、パワーウェイトレシオ等々、これここの数値が優るという「分かりやすさ」がない。むしろ、それを拒否する一台なのに、そこに妙味を見い出すスポーツカー好きが少なくない事実に、清々しさを覚える。
ふたつ目はプロダクト・アウト視点だが、歴史あるブランドとはいえ’90年代から市販モデルは途絶していたわけで、いくら伝統のディエップ工場生産でも、クルマというプロダクトとして、その造りと造り手の正統性を疑うところから始めなければならない。ポルシェやフェラーリのように今日まで途切れることなく続いてきた老舗のスポーツカーブランドの暖簾とは異なるのだ。平たくいえば、下取り大事な心配性の人には、かなり躊躇させるところがあった、もしくは今もあるはずだ。
加えて3つ目は、オリジナルのRRレイアウトを捨て去ってMRを採用し、メカニズムやハードウェアとしてまったく隔絶した点で、昔のA110オーナーからも総スカンを喰う可能性もあった。にも関わらず、それを十分に納得させ余りあるグッドサプライズに仕立て上げた、エンジニアリング上の手腕の冴えはもっと敬意を払われて然るべきだろう。ちなみに、開発初期にプロジェクト兼エンジニアチーフを務めたジャン・パスカル・ドース氏は21歳の時から旧A110を所有し、ネジ1本まで自分の手で組んでレストアした「いちエンスージャスト」。熱量の高さは推して知るべし、だ。
つまりアルピーヌは飛びぬけて高額なスポーツカーではないが、ハイスペックや間違いのなさで消費者に気に入られようという「最適化プロダクト」では全然ない。分かる人には素晴らしさは伝わるが、台数は出ないだろうな、誰もがそう思っていたはずだ。
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