【国内試乗】「ロールス・ロイス・カリナン」正真正銘“ヨンクのロールス”

SUVルックで車高の高いファントム

6.75L V12エンジンは低回転域から厚いトルクが確保できるツインスクロール式ターボを採用。571psの最高出力もさることながら、最大トルクは1600rpmで850Nmを発生。

エンジンは6750ccのV型12気筒ツインターボで、571ps/850Nmのパワースペックを誇るが、同じエンジンを積むファントムと比較すると、最高出力は同値ながら最大トルクはカリナンのほうが50Nm少なく、発生回転数も100rpm下がっている。車両重量はカリナンのほうが約200kg重く、空力面でもカリナンのほうが不利なので、本来なら両者のパワースペックは逆転していてもおかしくないのだけれど、真意のほどは不明である。ちなみに車検証によると、カリナンの車両重量は2800kg、車両総重量は3020kgとある。総重量で3トンを超える乗用車を運転したのは初めてかもしれない。
ここまでのヘビー級であっても、V12ツインターボの圧倒的パワーのおかげで鈍重な感覚は皆無であり、重さは“重厚感”というポジティブな印象のみをもたらす。ロールス・ロイスの伝統に則って、カリナンもまたエンジン回転計の代わりにパワーリザーブメーターが速度計の隣に置かれているので、実際の回転数を知ることができない。ただし、最大トルクの発生回転数と12気筒であることと総排気量から想像するに、おそらく通常は2000rpm以下で粛々と回っていると思われる。スロットルペダルを少し深く踏み込んだとしても3000rpmまでは回っていないだろう。“V12ツインターボ”という記号から想像する勇ましい出力/トルク特性ではなく、あくまでもジェントルでマイルドな加速感が味わえる。

これまでになかった3ボックスSUVは、ガラス製パーティションにより座席とリアコンパートメントを分割。遮音性や熱気・冷気が車内に入るのを防ぐなど快適な環境を作る。

組み合わされているトランスミッションはZF製の8速ATだが、シフトショックは皆無でいま何速に入っているのかもまったく分からない。コラム式シフトレバーには「LOW」と書かれたボタンがある。これは、ATの前進モードはDレンジしかなく、パドルもないロールス・ロイスに対して「やっぱりエンジンブレーキは使いたい」との要望が多数寄せられたため、数年前から採用された機能である。実際にはブレーキを踏めば静かにダウンシフトしているようだが、例えば8速から7速に落ちてもほとんど制動しないので、ドライバーが任意でエンジンブレーキが使えるこのボタンはやっぱりありがたい。
4輪駆動のシステムは電磁式マルチプレートクラッチを用いた機構で、前後のトルク配分を0:100から50:50まで常時可変する。パワートレインが基本的にはBMW社製で、この4WD機構のロジックから察するに、おそらくBMWのxドライブと同じシステムだと思われる。オフロード用のボタンはひとつのみで、パワートレインから空気ばねのダンピングレートやDSCのプログラムなどを自動で制御。最低地上高は190mmがデフォルトで、乗降時にはそこから40mm下がり、オフロードモードでは40mm上昇する。

ブランド史上初となる開閉式テールゲート「ザ・クラスプ」を採用。リアコンパートメント(トランクエリア)は560(トノカバーを外すと600)の収容スペースを確保。

このプラットフォームになってから、ロールス・ロイスは運転もそこそこ楽しめるクルマになった。カリナンもまた後輪操舵とエアサスペンションのおかげで、想像以上によく曲がるしステアリングレスポンスも良好だ。適度にロールを許すセッティングのおかげで、制御されている感じも薄く、これならショーファーもきっと退屈しないだろうと思う。
しかしカリナンのドライバビリティでもっとも感銘を受けたのは、こんなに大きなSUVであるにもかかわらず、速度を上げていっても乗り心地や静粛性にほとんど変化がない点だ。特にNVの処理は見事である。ファントムは吸音/遮音材だけで130kgも使用したと言っていたけれど、4輪駆動のカリナンはおそらくそれ以上ではないだろうか。
端的に言えば、カリナンはSUVルックで車高の高いファントムである。運動性能も操縦性もファントムと大差なく、同じテイストで仕立てられている。唯一の違いがあるとすれば、ショーファードリブンとしての用途が容易に想像できるファントムに対して、カリナンを選ぶユーザー層というのが、凡人の自分にはまったく想像できないことくらいである。

新型軽量アーキテクチャーと最新型自動レベリング式エアサスペンションにより、ロールス・ロイスの名高い「魔法の絨毯のような乗り心地」をオフロード/オンロード走行の双方で実現。

リポート:渡辺慎太郎/S.Watanabe フォト:柏田芳敬 /Y.Kashiwada ル・ボラン2019年5月号より転載

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