ポルシェ新型カイエン【国内試乗】さらに際立つ唯我独尊の二面性

新搭載技術がもたらす豹変ぶりに好感触!

新設のリアアクスルステアリング=4輪操舵は、車速80km/hを境に、逆相から同位相に変位する。これにより最小回転半径は60cmも小さくなって都会での取り回しに貢献する。そればかりか、高速域での安定感にもメリットが見出せる。おそらく、高速域でのスタビリティを担保したことで、中速クルージングの軽快さを引き出せたのだろう。4輪操舵を意識させずに整えたことにも感心した。

ちなみに、パワーフィールも同様で、攻撃的な印象は薄い。

準備されているエンジンは3種類。カイエンには340psを発揮する3.0リッターV型6気筒ターボ、カイエンSには440psの2.9リッターV型6気筒ツインターボ、最強のカイエンターボには550psを炸裂させる4.0リッターV型8気筒ツインターボが積み込まれる。

搭載エンジンはVバンク間に過給器を組み込んだ3.0Lシングルターボと2.9Lツインターボの6気筒、4.0L 8気筒ツインターボの3基種。ギア比をワイドにした8速ATと電制可変マルチプレートクラッチを備えた4WDシステムを組み合わせる。

試乗に供されたカイエンSは、レーシングエンジンに匹敵するリッターあたり152psを発揮するというのに、その数値から予想される激しさはなく、ドライバビリティに優れているのである。

出力の向上と軽量化はパワーウエイトレシオ(4.6kg/ps)に貢献して、踏めば速い。だが、ゆるゆると流している限り、実に穏やかでサルーン的な味わいだ。

スポーツフィールと効率が身上である伝家の宝刀「PDK」ではなく、8速ティプトロニックSとの組み合わせも特徴だ。数トンにおよぶクルーザーを牽引してマリーナに向かうというシチュエーションの都合で、相性のいいオートマチックを採用した。よくよく外観を眺めるとアプローチアングルはたっぷりと確保されている。道なき道を突き進むこともいとわない。シフトは小気味よく変速が決まるPDKも捨てがたいが、アウトドアでの性能確保も考えると、オートマチックを選択した意味に納得する。ATの採用が、新型が意識したであろう「優しさ」を強調していたのも副次的に嬉しい。

シフトセレクターまわりのスイッチ類がスッキリとシンプルになった。

そう、ここまで穏やかなテンションでドライブして思ったのは、新型カイエンが格段に洗練度を増し、アーバンSUVとしての資質を高めたことに感心する一方で、どこか物足りなくなったのも事実。本当に牙を抜かれてしまったのかと一抹の不安が芽生える。

そこで、後席でくつろぐ編集者を降ろして、ひとり雨の箱根に挑んでみた。ステージとなった有料道路は準備周到に貸し切りになっていた。ポルシェ本来の生息地である超高速域に遠慮なく挑むことにしたのである。するとどうだろう。にわかにポルシェらしい攻撃的な性格を露わにしたのだ。

440ps/550Nmという強心臓ながら、トルク可変制御を備えたフルタイム4WD4輪躁舵システムによりコーナリングは安定志向に。

エンジンサウンドは刺激的に変化し、回転を上げると、本性をさらけ出すかのように躍動感に満ち溢れていく。レッドゾーンまできっちりと使い切り、変速がアップテンポに繰り返されるのだ。

そこにPDKでないことの嘆きはない。まるでツインクラッチ式マニュアルであるかのように、変速のリズム感が気持ちよく、つねにロックアップしている感覚が強い。あの低回転域でのユルさが嘘のように感じたのだ。

フットワークも安定している。登り区間でフル加速しても、ノーズが見苦しく天を仰ぐことはない。レベライザーが機能しているかのように姿勢が安定しているのだ。むしろ車高が下がって、路面に吸い付くような感覚が残る。4WDゆえの安定感も秀でている。

新型カイエンは、穏やかな気持ちでクルージングしている時には高級サルーンのように優しい。だがひとたび鞭をくれると爽快なスポーティマシンに変貌する。そのリバーシブルな性格が最新のポルシェらしく好感触だった。

新型カイエンが優しく、それでいて熱いのは、季節のせいではなかったようだ。

カイエンSスポーツクロノパッケージ仕様車で0→100km/h加速が4.9秒、最高速度は265km/hとなる(いずれも欧州測定値)。

 

Specification
ポルシェ・カイエン
車両本体価格(税込):9,760,000円
全長/全幅/全高[mm]:4918/1983/1696
ホイールベース[mm]:2895
トレッド(前/後)[mm]:-/-
車両重量[kg]:1985
最小回転半径[m]:6.05
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:-/V6DOHC24V+ターボ
内径×行程[mm]:84.5×89.0
総排気量[cc]:2995
圧縮比:11.2
最高出力ps(kW)/rpm:340(250)/5300-6400
最大トルクNm(kg-m)/rpm:450(45.9)/1350-5300
燃料タンク容量[L]:75(プレミアム)
燃費(10・15/JC08)[km/L]:-/-
ミッション形式:8速AT 変速比:1)5.000、2)3.200、3)2.140、4)1.720、5)1.310、6)1.000、7)0.820、8)0.640、R)3.480、F)3.210
サスペンション形式:前 マルチリンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール):前225/55R19(8.5J)、後275/50R19(9.5J)

ポルシェ・カイエンS
車両本体価格(税込):12,880,000円
全長/全幅/全高[mm]:4918/1983/1696
ホイールベース[mm]:2895
トレッド(前/後)[mm]:-/-
車両重量[kg]:2020
最小回転半径[m]:6.05
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:-/V6DOHC24V+ツインターボ
内径×行程[mm]:84.5×86.0
総排気量[cc]:2894
圧縮比:10.5
最高出力ps(kW)/rpm:440(324)/5700-6600
最大トルクNm(kg-m)/rpm:550(56.1)/1800-5500
燃料タンク容量[L]:75(プレミアム)
燃費(10・15/JC08)[km/L]:-/-
ミッション形式:8速AT 変速比:1)5.000、2)3.200、3)2.140、4)1.720、5)1.310、6)1.000、7)0.820、8)0.640、R)3.480、F)3.210
サスペンション形式:前 マルチリンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール):前225/55R19(8.5J)、後275/50R19(9.5J)

リポート:木下隆之/フォト:郡 大二郎/ル・ボラン 2018年9月号より転載

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2018/08/08 10:00

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