【嶋田智之のル・マンへの道! ……クルマで向かうだけなんだけど】Part.10

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 自動車専門誌ル・ボランと当サイトで好評連載中の【月刊イタフラ】番外編。日本時間の6月13日夜にロンドン郊外に降り立ったモータージャーナリストの嶋田智之氏が、スマホだけでリポートする、グランドツーリング紀行。レースは終わったけれど報告は続きます。

現代に蘇るトリプルV

   もうとっくに2018年のル・マン24時間レースは日本人にとって嬉しいカタチで美しく幕を閉じちゃったわけだけど、リアルタイム(じゃなくなっちゃった)レポートは、まだ続く。

   前回の Part.09 の本文の中で、僕が“V600”というワードに異様に興奮してたことを覚えてらっしゃる方も6人くらいおられるんじゃないか? と思うのだけど、そうそう、そうなのだ、興奮せずにはいられなかったのである。なぜならば、アストン・マーティン・レーシングのホスピタリティ・ビルの前に何の前触れもなく展示されていた“V12ヴァンテージV600”は、5月に発表されたリミテッド・エディションなのだが、何とクーペ7台、ロードスター7台の計14台しか作られない。ナマで観られる機会なんてないだろう、と思ってたのだ。

“V600”というネーミングは、アストンファンにとってはちょっと特別な意味合いを持っている。1989年にデビューした初代ヴィラージュの高性能版として2代目のヴァンテージが1993年にラインナップされたわけだが、V600はそれをさらに獰猛に仕立て上げたスペシャルモデルとして1998年に登場している。正式名称を“V8 VANTAGE V600”といい、好き者達には“トリプルV”と呼ばれたモデルだ。5.3リッターのV8ユニットは2基(!)のスーパーチャージャーなどで600ps(最終的には612ps)までパワーアップが施され、シャシーや空力面もそれに見合ったモノが与えられている。その当時にして320km/hの最高速を可能にしたいたという過激派だ。

   新しいV600は、その車名からもシルエットからもわかるとおり、先代V12ヴァンテージをベースにしている。旧来のVHアーキテクチャーと蕩けるように気持ちいい自然吸気V12を持つアストンの、おそらく最後を飾るモデルとなるだろう。V12ヴァンテージはシリーズの中ですで600psオーバーを実現しているから、パワートレーン的にはV600を名乗る資格は充分にあるわけだけど、アストンは車体にもしっかり手を入れている。フルカーボンでボディパネルを作り直すのみならず、かなり印象的なディテールを持たせているのだ。

   開口部が拡大されて波状のアクセントが加えられたフロントグリル。これ、見るからにめちゃめちゃ手が込んだ作り。

   上手く写真が撮れなかったから広報写真を使うけど、大きなパワーバルジと粒のような丸い放熱孔が無数に穿たれたエンジンフード。それにサイド・ストレイキの形状も異なれば、フロントのリップとリアのディフューザーのデザインも専用のモノにあらためたれている。ホイールもセンターロック式だ。アストンらしく抑制の効いたスタイリングといえる範疇にあるけれど、ディテールはかなりアグレッシヴ。フツーの人には通常のV12ヴァンテージと見分けがつきにくいかも知れないけど、知ってる人が見たら間違いなく「わわっ!」となる、巧みなバランス感がまたアストン・マーティンらしい。

   これは Q by ASTON MARTIN というビスポーク部門が創り上げたものだが、それらのデザインは当然ながらマレック・ライヒマンと彼のチームによるもの。アストンのリミテッド・エディションは目的に対して手抜かりというのがないのだな、と思わされた。……とにかく! カッコイイのだ。ちなみに展示されていた個体のアズキ色のようなカラーリングも、めちゃめちゃいい雰囲気を放ってた。

  価格は正式にはアナウンスされていないけど、噂によれば日本円にすると1億円超えらしい。……うーむ、早くこういうのをオーダーできる身にならなきゃなぁ。

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