不屈の精神で勝利を掴み獲る
瞬く間にノルドシュライフェを冷たい雨が濡らした午前3時過ぎ、ステアリングを担っていた井口は冷静に状況を把握し、ピットで見守る辰己総監督と密に連携。正確にタイヤを選択して暗黒の雨を乗り切った。その後一時的に止んでいた雨は午前4時半頃にふたたび降り始め、コースはかなりのヘビーウェット状態となる。見えぬアクアプレーニングで次々とクラッシュするマシンを横目に、ベテランのティム・シュリックがドライブするWRX STIは、SUBARUが誇るAWD性能の底力を存分に発揮し、まるでアスファルトに吸い付くような安定した走りでクラス首位を独走する。
明け方のグランプリコースには真っ赤に染まった幻想的な朝焼けが広がり、蓄積された疲労を癒してくれた。だが信じられないことに、同時間のノルドシュライフェにはまたもや大粒の激しい雨がアスファルトに叩きつけられ、「もはやワイパーなど役に立たない!」とドライバーからの無線が飛び交い、タイヤの準備に慌ただしく追われるメカニッククルー。これこそが緑の地獄ニュルに潜む魔物の洗礼とでもいうべきだろうか!?
レースも終盤に近い午前11時半にはまたもや低く黒い雲が立ち込め、強い雨に加えて濃霧にも悩まされる。夜明けから一旦外していたナイトセッション用のグリルライトをふたたびマシンに装着して視界の確保に努めるが、あまりの荒天により11時58分にはレッドフラッグが振られてレースは一時中断となった。この時点で総合50位、クラストップは死守している。
依然としてニュルは霧に包まれたままだったが、小雨になって路面コンディションが好転し、ふたたびグリッドに全マシンが整列。13時45分にセーフティーカー先導の下、山内がステアリングを担って再スタートだ。しかし、その僅か30分後にまたもや試練が襲う! レース終了も目前に迫ったこの時点でWRX STIにエンジントラブルが発生し、ふたたびのピットインを余儀なくされてしまう。焦る気持ちを必死抑えながら辰己監督の指揮の下、全員で懸命な修復作業が続けられるが、刻々とゴールの時間が迫りくる。そのクルーひとりひとりの背中から『決して諦めてなるものか!』と強い気迫が漲る。そしてついにレース終了間際15分前にコースへ復帰。全世界の『スバリスト』の想いを背負い、不屈の精神を持って悲願の5度目のクラス優勝を奪回したのだった。
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